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カート 0

発酵管理

温度が5℃に保たれたひんやりとした部屋。仕込みを行うタンクのふたを開けると、フルーティな香りがふわっと広がる。フルーツにもいろいろな種類があるけれど、新鮮な青りんごのように落ち着いた品のいい香りだ。

タンクの中を覗き込むと、日本酒になる前段階である醪(もろみ)の表面に時々気泡が浮かぶ。発酵しているのだ。今、タンクの中では複雑で、少し神秘的な工程が進行している。

タンクに仕込まれているのは、麴、蒸米、酒母(酵母)、仕込み水。まず、麴の酵素が米のデンプンをブドウ糖に分解して、酵母に供給する。酵母は、受け取ったブドウ糖をアルコールに変える。醪が徐々に日本酒に近づく。ワインと日本酒は作り方が似ていると言われるけれど、ワインの場合はブドウ糖をアルコールに変えるだけだ。したがって、日本酒の発酵の方が複雑だと言える。この複雑な発酵の工程を繊細にコントロールすることが、うまい酒造りのポイントとなる。

旭酒造は、低い温度で時間をかけて、発酵させる製法を採っている。酵母も生き物だから、少し高い温度の方が活性化する。けれども、酵母が生きるか死ぬかのぎりぎりの温度でじっくり発酵させた方が、仕上がった時のきめが細かくなり、芳醇な香りが生まれるのだ。獺祭を初めて口にした人の多くが驚く、滑らかさやフレッシュな香りは、低温長期発酵の賜物だ。大量生産をする日本酒メーカーだと、早ければ10日からから2週間ほどで発行を済ませる。一方、旭酒造は35日程度、最長だと50日もかける。

ただ時間をかけるだけではんく、手間もかけている。担当者は電子温度計で醪の温度を逐次✓、必要とあらば木製の櫂でかき混ぜる。5℃を保つ冷気をブレンドすること、0.1℃単位で理想の温度を維持するためだ。発酵熱をコントロールするこの作業を、櫂入れと呼ぶ。

旭酒造はかつて、醪の温度をセンサーとコンピュータで管理しようとしたことがある。けれども、うまくいかなかったという。なぜなら酵母は生き物であり、米も収穫した水田によって性質が異なる。そうした組み合わせから生じる微妙な温度の変化には、最新のセンサーやコンピュータをもってしても対応できないのだ。

仕込みの一連の作業は、杜氏と呼ばれるスペシャリストが請け負うのが常識だった。旭酒造でも、かつては杜氏が担当していた。けれどもある時から杜氏の勘や経験に頼るのではなく、成分検査のデータ分析と酒を利くことで判断する方法に改めた。

旭酒造の桜井博志は、「杜氏が来てくれなくなったので、自分たちでやるしかなかったのです。苦肉の策でした」と振り返る。けれども、結果的には杜氏制度の廃止によって、酒の味はぐんと良くなった。当時に遠慮することなく、理想の酒造りを追求できるようになったからだ。同時に、農閑期の冬だけしか仕込みをしない杜氏に頼らなくなったことで、年間を通じて仕込みが可能となった。

醪を手作業で、低温長期醗酵する。杜氏制度を廃して年間を通じて酒を仕込む。どちらも業界の常識を覆す取り組みだ。同時に、うまい酒を造るための挑戦であるという点で共通している。