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カート 0

麹造り

しんと静まり返った麹室で、数人の男たちが手にした容器を振りながら、ゆっくりと歩いている。その様子は宗教的な儀式の様にも見えるし、見る人によってはユーモラスな動きだと感じるかもしれない。これは、無視上がった米に麴菌を振りかけて麹を造る、「種切り」と呼ばれる工程。

興味深いのは、手作業と言う言葉がふさわしい作業を行うこの空間が、実に近代的であることだ。麹室の壁がステンレス製なのがおわりいただけるだろうか。

昔は、勝手に温度を調整してくれる杉の板を使っていたけれど、温度と湿度を徹底管理し、細菌汚染の不安をゼロにするためにステンレスを用いるようになった。天井に空調ダクトが張り巡らされているのは、空調を完璧に制御するため。年に一度しか仕込みを行わない酒蔵が多いなかで、1年365日、常に醸造を行う旭酒造が特徴である。特定のある季節だけでなく、式を通じて安定した品質を維持するには空調をコントロールすることが重要なのだ。それには、ファクトリーと呼びたくなるような麹室が必要だった。デジタルに管理されたファクトリーの中で人間がアナログな動きをする、そのコントラストが強烈だ。

38℃に温度管理された近代的な室で、麴を振りかける作業が続けられる。一粒の米に二、三粒の麹が付くのが理想だ。米粒に麹を付けるというより、空間に麴菌を散布し、それがゆっくりと落ちてきて均等に米に降りかかることをイメージしている。

麴菌は、米の中心部の「心拍(しんぱく)」という隙間に入る。心拍に麹がうまく収まることで、質の高い米麴が生まれる。古来から、麹造りは酒造りのなかでも最も重要な工程だとされてきた。それは間違いではないけれど、良い麹を造るにはその前段階が重要である。例えば心拍に麹を収めるためには、きれいな心拍を持つ米が必要だ。心拍の形がきれいな山田錦のなかでも、旭酒造が特に優れたものを選りすぐるのはそのためだ。また、洗米で水分含有量をきめ細やかにコントロールするのも、心拍の中にしっかりと麴菌を送り込むためだ。

ここから、3日にわたる"お世話"が始まる。麴菌が活動を開始すると熱が出て、それをコントロールしなければならないのだ。温度を整え、湿度を管理する。言うなれば赤ん坊の世話をするのと同じで、一時も油断することは出来ない。担当者は匂いに敏感になり、時には口に含み舌で麴菌の状態を確認する。一方で、検査室に持ち込み、科学的な計測も欠かせない。コンピュータは、いま世話をしている麹が、どれくらい酵母にブドウ糖を供給する能力を持っているかを、正確に計測してくれる。

旭酒造の酒造りのプロセスは実に明快だ。うまい酒を造るという目的に向けて、理詰めで構築されているからだ。手作業の方が正しく出来る工程は、手作業で行う。一方、機械やコンピュータの方が向いている作業があれば、そちらに任せる。そして人の互換が感じ取った情報と、コンピュータが打ち出したデジタルなデータを重ね合わせて、検証を行う。「秘伝の」や「門外不出の」といった曖昧なところが皆無で、文章家出来ることばかり。大事なのは手作りをすることではなく、うまい酒を造ることなのだ。

獺祭の濁りのないすっきりした味わいは、すっきりとしたモダンな考え方から生まれる。